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2011.07.07

あれからどうしてた?2

〈昨日の続き〉

 

相手は、意表を突かれたような顔をして、こんなことを言うかもしれない。

「僕は、君が元気にしていたか、ただ、それだけを聞こうと思っただけなんだけど…その質問が、そんなに気を悪くすることかな…?」

私は言うだろう。

「気は悪くはしないけれど、その質問に私は寂しさを覚える。私は、あなたに振られたんだよ。振られたってことは、興味ないって、告知されたようなものなんだろう…ていう解釈に、あれからの年月で至ったの。だから、こんなふうに久々に話す機会が生まれた時に、あれからどうしてた?って聞かれると、いいけど、なんか嫌なの」

それに対して、その人は、こんなことを言うかもしれない。

「でもさ、僕、君を振ったわけじゃないから。さっきから、振られたって言っているけど、身を引いただけで、振ってないから」

それに対し、私は、こんなことを言うだろう。

「お千代坊だって振られたって思っているもの!寅さんは身を引いた気でいるけど、お千代坊だって、振られたって思っているもん!」と。

 

確かに、振ったのと、身を引いたのとは、

意味合いとしては大きな違いがあるのかもしれない。

様々な事情が絡んで、相手を幸せにできる立場じゃないから、

相手の幸せを遠い空の元より祈りつつ身を引くという形の別れ。

身を引いた方としては、

振ったわけではないという認識があるかもしれない。

しかし、身を引かれた方は、

結局は、愛する人に振られたという事実が残るものだと思う。

 

そして、

そんなケースにぴったり当てはまる人たちと言えば、

第10作 男はつらいよ「寅次郎夢枕」の車寅次郎と、

幼馴染みのマドンナ、お千代坊(八千草薫)なのだ。

 

寅さんは振られてばかりという印象を持つ人も多いが、

リリーを初め「寅次郎夕焼け小焼け」のぼたん、

「浪花の恋の寅次郎」のふみさん等など、

寅さんに心惹かれたマドンナはけっこういる。

全48作中、お千代坊は特別なマドンナとも言える。

理由は、面と向かって寅さんに告白した唯一の人だからなのだ。

その時の寅さんの様子は、

是非とも映画を観て頂きたいのだが、

お千代坊の告白に対しての寅さんの態度を、

オノマトペからひとつ選ぶならば“フガフガ”といった感じだった。

自分は股旅ガラスの渡世人だからお千代坊に相応しくない、とか、

自分は岡倉先生とお千代坊の恋の架け橋のつもりでいた、とか、

結婚への覚悟も無いしお千代坊を幸せにできる自信がない、とか、

眩しいほどに美しいお千代坊に告白されて想定外過ぎた、とか、

そんな様々な事が寅さんの頭に過ったのだろう、

確かに、あんなに美しい人に突然に告白されたら、

誰もが腰を抜かしかねない。

しかし、告白を受けた寅さんの様子からは、

お千代坊を一生守っていきたい、幸せにしたい、

という気迫のようなものは全く伝わってこなかった。

それどころか、“フガフガ・・・ヘタリ”という感じだった。

その様子に、お千代坊は次のように言うしかなかった。

「うそよ…やっぱり冗談よ」と。

この“やっぱり”という言葉に、

私はお千代坊の優しさと隠せない戸惑いが現れていると思うのだ。

こうしてお千代坊の寅さんへの告白は、

そのまま、ぎくしゃく感が残ったまま幕を閉じた。

その後、寅さんはなんのフォローもせず、

ただ心の中だけで、

お千代坊の幸せを思い身を引く形で旅に出てしまった。

その後、月日は流れお正月がやってきた。

とらやのお茶の間には、

寅さんを抜いたいつものメンバーに加えお千代坊がいた。

とらやの誰だったかが、

岡倉先生との結婚話を拒むお千代坊に、

こんなにいい話は無いんだから…考え直せばいいのに、

と、進言した時、お千代坊が寅さんへの思いを語ったのである。

「私、寅ちゃんとだったらいいわ、でもダメね、ふられちゃったから…」、

冗談だと思って大笑いするとらやご一同さまに、

お千代坊は真剣な顔をして理解を求めるように言ったのだった。

「冗談じゃないのよ」、と。

 

長くなったが、何を言いたいかと言うと、

寅さんはお千代坊の幸せを思って身を引いた気でいても、

身を引かれたお千代坊には、

結局は振られたという事実が記憶に残っているということなのだ。

身を引く人、身を引かれた人、

思いはそれぞれ違うものだと思う。

この延長線上の話として、私は更に、もう一つの思いがある。

 

映画、「男はつらいよ」はタイトルからも分かるように、

マドンナに振られる寅さん、時に、マドンナから身を引く寅さん、

を描くことで「男はつらい」という男性の心の痛みを描いている。

映画では、

寅さんに身を引かれたマドンナが何を思ったか、

その心境が語られることはない。

そこで私はこんなことを思ったのだ。

寅さんは、マドンナを常に肯定し続ける。

寅さんは、マドンナの理解者となり最大の味方だと態度で表明する。

心底から肯定してくれる強い味方であり理解者の寅さんに、

マドンナ達は寅さんの愛を感じる。

寅さんの愛に包まれたマドンナは、

寅さんをマドンナの愛で包もうとすると、

寅さんは身を引いて旅に出てしまうのだ。

それは、マドンナの日常から忽然と寅さんが消えたことを意味する。

私を本当に幸せにしたいと思ってくれたなら、

私を本当に愛しているなら、

寅さんは旅に出なかったのだろう・・・、

私、振られたのね。

と、マドンナは思うだろう。

そんな思いを抱えて生きていくことになったマドンナの心痛は、

計り知れないと思うのだ。

 

年月が流れ、ある日、ひょっこり、

寅さんはマドンナの様子を見に姿を出したりする。

その時、

「あれからどうしてたよ?」って言われたら、

勿論、嬉しいが、マドンナの胸中は複雑なはず・・・と、

私は言いたいのだ。 

従って、あの映画の隠れタイトルとして、

『寅次郎を愛したら、つらいよ』がいいのではないかと思うのである。

身を引く方も、身を引かれた方と同じぐらい、

辛いのかもしれないけれどね…。

 

おわり

 

「ボンちゃん、ゴリラは好きな対象から身を引いたりする?」

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